ヨーロッパ最大のファッションイノベーション地区!最先端をいくロンドンのフィッシュ・アイランド・ビレッジ(Fish Island Village)とは?
野本 菜穂子
イギリス国内で最も早いスピードで成長しているとされる、イギリスのファッション業界。ロンドンでは6人に1人がクリエイティブセクターで働いており、ファッションをはじめとするクリエイティブ業界は、イギリス経済を引っ張る大きなセクターと言えます。
一方で、ロンドンではどんどんクリエイティブワーカーの活動場所が失われていっています。10年以上も前、多くのアーティストは当時地価が安かった東ロンドンに住みはじめました。数々のトレンドが生まれるに連れ、これらの地域の地価は上がり、彼らが活動拠点としていたウェアハウスや倉庫などはビンテージ住居として買い取られていきました。
ロンドンの新ファッションハブ、フィッシュ・アイランド・ビレッジ(Fish Island Village)とは?
ショーディッチやハックニーを中心とした地域を活性化させた当人たちは家賃を払えず追い出され、いわゆる「ジェントリフィケーション(都市の貧困層の居住地域が再開発によって地価が高騰し、貧困層が居住できなくなる現象)」がここ数年で大きな問題になっています。次の5年で、なんと2割近くのアーティストのワークスペースが失われるといわれています。
このような課題を受け、東ロンドンに位置するハックニー・ウィックの川沿いに2018年秋にオープンしたのが、フィッシュ・アイランド・ビレッジ(Fish Island Village)です。「勢いのあるファッション関連のビジネスがともに住み、働き、トレンドを生み出すクリエイティブキャンパス 」と銘打たれ、安価でモダンなスタジオスペースを計40部屋ほど提供予定(最初のスタジオ12件は2019年11月にオープンしました)。
合計11件もの建物が新築される予定で、そのうちサンプルセールの会場やポップアップギャラリー、キャットウォーク会場なども含まれます。既存のカフェ、バー、レストランに加え、新たなお店もオープンする予定です。
新しいラグジャリーブランドからファッションテックスタートアップ、ファッション系の出版業界、など全てのファッションに関わるビジネスを繋ぐ地区として注目を浴びています。
また、近くのオリンピックパーク跡地のイノベーションエリアであるストラトフォード(Here Eastエリア)との連携も図っていく予定とされています。
企画・運営は、社会的企業であるザ・トランペリー(The Trampery)
この大規模なプロジェクトを企画・運営しているのが、社会的企業(ソーシャルエンタープライス:社会問題の解決を目的として収益事業に取り組む事業体)である、ザ・トランペリー(The Trampery)。
イギリス国内外で多くのコワーキングスペースやイノベーション地域を企画しており、イギリス政府とともに生み出したテックシティ地域もその一つ(いわゆる「シリコンラウンダバウト」ー詳細はこちらの記事参照)。他にもオスロのTøyen Startup Villageを企画したり、合計11つの大規模なイノベーション地区プロジェクトを達成しています。
フィッシュ・アイランド・ビレッジの最も安価なスタジオスペースは18.5平方メートルのスタジオで、417英ポンド(約58,000円)です。また、スタジオスペースの提供に加え、入居者は海外進出、投資、サステナビリティに関する専門家のサポートを受けることが可能。
フィッシュ・アイランド・ビレッジのプロジェクトの建設側は、Peabody Trust(ハウジング・デベロッパー)やHill(建築会社)といったようなパートナーが協力しています。ブロジェクトへの投資額は750万英ポンド(約10億円)とされており、この大部分はロンドン市が支援しています(詳細については「ロンドンのクリエイティブ市場」にて後述)。
プロジェクトの理念と背景
2015年、The Tramperyが運営していたスタジオビルの家賃が400%増加。入居していたHolly Fulton, Lou Dalton や James Longなど有名デザイナーのスタジオ代が125,000英ポンドから500,000英ポンドに跳ね上がりました。
このような状況からビジネスを守りたい、という想いからCEO兼創設者のCharles Armstrong氏が着手したのが、フィッシュ・アイランド・ビレッジのプロジェクトでした。
いうまでもなく、安価かつ最新のスタジオスペースで働きたいという入居希望者は多数。2018年6月の最初の入居者募集の際には、26件のスタジオ部屋に対し、100以上ものアプリケーションがあったとのこと。そこで、以下のような基準に基づき、入居者が確定されました。
- クリエイティビティー
- ビジネストラテジー
- サステナビリティー
- コミュニティー性(安価でアクセシブルなサービスを提供できるか)
また、入居者選考のジャッジは以下の4人。
- Vanessa Podmore – Podmore Consulting/創設者、バーバリー/サステナビリティー・サプライチェーン元バイスプレジデント
- Yvie Hutton – ブリティッシュ・ファッション・カウンシル/ヘッド・オブ・メンバーシップ&デザイナーリレーションズ
- Matthew Drinkwater – ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション/ヘッド・オブ・ファッションイノベーションエージェンシー
- Charles Armstrong – The Trampery/創設者&CEO
すでに1回目の募集は2018年秋に終了し、選考された入居者は2019年11月よりスタジオ入居可能とのこと。
ロンドンのクリエイティブ市場:規模と課題
さて、本フィッシュ・アイランド・ビレッジプロジェクトの資金調達はどこからされているのでしょうか。
このプロジェクトの資金面で大きな役割を担っているのが、ロンドン市です。
フィッシュ・アイランド・ビレッジが位置するハックニーウィックエリアは、ロンドン市の「6 Creative Enterprise Zones」の1つに選ばれています。これはロンドン市長Sadiq Khanが2018年12月に発表した経済支援スキームで、ロンドンの6つの地域( Lambeth, Croydon, Hounslow, Lewisham, Haringey, Hackney Wick)のイノベーション促進のため合計1100万英ポンド(約15億円)を支援しています。
現在、東ロンドンのファッション産業は 14億英ポンド(約1952億円)の評価価値があり、また2010-2015の5年間で10,000人分もの雇用を生み出しました。一方、ロンドンのクリエイティブスペースの95%はすでに入居されており、多くのクリエイティブワーカーが高騰する地価によって押し出され、マンチェスターなど他都市に移住しているのが現状です。
ブレグジットの不安もある中、このような状況を打開するため、クリエイティブなワーカーたちを守り、さらにロンドンでの雇用創出のためのスキームとなっています。
サステナビリティへの取り組み
フィッシュ・アイランド・ビレッジの中心的な理念の一つに、サステナビリティがあります。多くの調査がすでに示しているように、ファッション業界は全世界のCO2排出量の1割近くを占め、航空業界と運送業界の合計を越えていることから、本プロジェクトも環境配慮に関しては非常に敏感です。
入居する企業に対し、サステナビリティー・サポート・プログラムを準備し、「エコ・ファッション・エキスパート」が常駐し、様々なエコ関連のイベントも開催される予定です。
また企業のストラテジーにいかにサステナビリティーを織り込んでいくか、といったようなコンサルティングも無料で行われます。
フィッシュ・アイランド・ビレッジの特徴
スタジオスペース
まだまだオープンしたばかりで公開されている情報は限られていますが、スタジオスペースの様子は以下ビデオにて紹介されています。
また、地区全体のマップは以下の通り。スタジオをはじめ、ショースペース、コワーキングスペース、カフェ、セミナールームなどの施設が入り混じったコミュニティースペースとなる予定。
公式インスタグラムでは、本日11月13日付で記念すべき最初のスタジオメンバーが入居したと投稿されています。
入居ブランド第一号は、エシカルでサステナブルなニットウェアやシャツ、アクセサリーをデザインする「Sabinna」。フィッシュ・アイランド・ビレッジの理念にふさわしいブランドがセレクトされています。
アパート
住まいに関しては現在バイヤーを募っていますが、ザ・トランペリーCEOのCharles Armstrongは「正直、アーティストが払えるような家賃ではない」との事。スタジオは安価ですが、アパートはジェントリフィケーションが未だ課題となっているそうです。
アパートの内装や外見、周辺の様子は以下の通り。
Here Eastなどをはじめとするオリンピックパーク跡地(ストラトフォード)の再開発が目と鼻の先です。BBCの本社移転先が決まり、さらにVictoria and Albert Museumの第2館もオープン確定となっており、ロンドンでも最も注目される再開発地域の一つです。
そんなストラトフォードには電車で1駅、自転車でも10〜15分でいける距離となっており、非常に勢いのあるエリアにとなっています。
レストラン、カフェ・バー、イベントスペース
ハックニーウィックにはすでにいくつかのヒップスターなカフェやアートスペースが存在しています。
たとえば、Grow, Hackneyは最も有名なバー&レストラン&クリエイティブスペースの一つです。サステナビリティをテーマにし、古いソーセージ工場を改築したスペースでたくさんのイベントを主催しています。
他にも、コミュニティーサイトHackney WickEDに掲載されているローカルマップからは数々のショップの情報を見ることができます。
まとめ
熱気が高まる一方の、ロンドンのファッションをはじめとするクリエイティブセクター。高まる環境問題への意識と合わさって、東ロンドンハックニーウィック地域のプロジェクト、フィッシュ・アイランド・ビレッシの取り組みを紹介しました。
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