
ヨーロッパにおけるウェルビーイング、ウェルネス、マインドフルネスのトレンド
野本 菜穂子

よく耳にするようになった、ウェルビーイング(Wellbeing)、ウェルネス(Wellness)、マインドフルネス(Mindfulness)といったワード。それぞれ健康に関わるということはわかるけど、実際の違いは何?と思う方も多いと思います。
まず、もっとも包括的な健康を意味するウェルビーイング(Wellbeing)とは、端的には精神的、身体的、社会的に健康である状態をさします。体の健康だけではなく、心が健康で、さらに幸福感や充実感がある、ストレスフリーな(もしくはうまくストレスと付き合えている)状態のことです。1946年の世界保健機関(WHO)憲章では、「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(well-being)にあること(日本WHO協会:訳)」と説明されています。
次に、簡単に言うと、ウェルネス(Wellness)とは体の健康、マインドフルネス(Mindfulness)は心の健康をさします。Wellness + mindfullness = Wellbeingということになります。ただ、実際にはWellnessという言葉はどんどん精神の健康、という意味も含むようになってきています。したがって、WellbeingとWellnessは同義語として使用されることも少なくありません。
さて、体の健康を指すウェルネスは理解しやすいですが、心の健康であるマインドフルネスとは具体的なイメージがつきにくいかもしれません。
マインドフルネスとは、一般的には「心と体の感覚にアウェアであること、雑念や不安がなく、「今ここ」だけに集中できている状態」と説明されます。マインドフルネス向上の実際のプラクティスとは、瞑想やヨガ、呼吸法などがあります。リラックス効果だけでなく、実施後は集中力ややる気を高める効果があると科学的に証明されています。
5年以上前からすでにビジネスシーンにおけるマインドフルネスはトレンドとなっていて、Google社やFacebook社などの大企業も次々とビジネス研修などに取り入れているとが話題となりました。暮らしがどんどん便利になっていく一方、生活は忙しく、都会では自然に触れる機会も少なくなり心身共に健康である重要性が説かれる時代になりました。前回の記事でみたように、「Shinrin-yoku(森林浴)」「Zen(禅)」といったワードがヨーロッパで大きなトレンドとなっている背景にも、このような事情があります。
欧州では心身の健康への注目が特に高まっており、ビジネス生活と私生活両方におけるウェルビーイングへの取り組みが非常に増えています。
生産性アップ、ワークライフバランスへのニーズがトレンドの背景

このようなウェルビーイング(心身の健康)が注目をあびる背景としては、1)生産性、効率性アップ 2)ワークライフバランスへのニーズ、が主にあります。
ウェルビーイングが生産性をあげるというデータは世界中で多くあり、英国では2018年に1日の労働時間のうち約12分30秒が、ストレスや気分の落ち込み、不安のために失われたとのこと。また、2018年11月の時点で、欠勤日の過半数以上が仕事のストレスや不安によるものというデータがあります。
日本でも、ウイングアークフォーラム2017 東京によれば、「幸せな社員は創造性3倍、労働生産性1.3倍」という指数も出ています。
このような背景より、ストレスに対する付き合い方だけでなく、そもそものストレスの減らし方、ポジティブ思考や幸福感の得かたなどに関する様々な取り組みが欧米ではなされています。ここでは、いくつかトレンドの特徴をご紹介します。
ヨーロッパにおける3つのウェルビーイングトレンド
オフィス x ウェルビーイング
Grand View Research, Incによれば、ビジネスシーンにおけるウェルネス市場は、2025年までに840億米ドルに達すると予測されています。現在、すでにこの業界に対し475億米ドルの評価価格がでており、2019年以降は毎年6.8%の成長率が見込めるとのことです。
以下、いくつかオフィスにおけるウェルネスの取り組みの事例を取り上げます。
Inhere (インヒア)
ロンドンを拠点とする、メディテーションに特化したサービス企業。マインドフルネスの専門家とインテリアデザイナーのチームにより、「Meditation Pods」という設置型の瞑想スペースをレンタルしています。
スペースはスパを連想させるような木造の囲いとカーテンでできており、プライバシーを作り出すと共に閉塞感がないほどよいバランスの空間となっています。ソファーに座り、備え付けのヘッドフォンをし、メディテーションセッションが行えます。
このポッドを使用する目的としては、集中力の向上、ストレスフルな状況に落ち着いて挑めること、クリエイティビティの促進、同僚とのスムーズなコミュニケーションなど様々。
朝の出社直後に頭をスッキリさせたい時、午後の集中力を高めたい時、または仕事後に気持ちを落ち着かせたい時など、様々なシーンで活用できるとのこと。
BBC News、The Guardian紙などでも取り上げられており、また2018年11月には、とある小学校にもポッドを寄付したとニュースになりました。
Paws in Work (ポーズ・イン・ワーク)
ロンドンを拠点とする、企業のウェルビーイング向上の一環として、かわいい子犬たちと触れ合える「子犬セラピー」の場を提供するスタートアップのサービス。2018年6月設立。
ペットとの触れ合いは血圧やコルチゾール値を下げ、精神的なウェルネスだけではなく身体的にも好影響を及ぼすというデータが出ており、これをオフィスシーンに持ち込んだ事例です。
当社が各オフィスに出張し、オフィスのミーティングスペースなどで仮設プレイエリアをつくり、ミニチュア家具、カラフルなクッションやビーンバッグを置き、癒しの空間を演出します。子犬たちが休めるスペースも用意されており、安心して触れ合えることができます。
忙しい仕事の合間の15-20分程度の間に、従業員が自由に参加することができます。それぞれの企業の要望に併せてデザインが可能で、ヨガクラスや飲み会だけではない、デスクから離れて気持ちを切り替えられるユニークなサービスと注目されている。
背景としては、ヨーロッパでは、犬OKな職場がどんどん増えていることがあげらます。電車やカフェも犬OKなところがほとんどで、ペットを連れてきてもいいオフィスも多数あります。
当社は犬を持たず、ペットオーナー、ブリーダー、ドッグホームやペットチャリティー団体から子犬を借ります。その際、当社が料金を支払うので、貸す側もOKを出しやすいのが特徴。日中子犬を留守番させられない個人の飼い主や、人間との触れ合いを増やしたいドッグブリーダーにとっても助かる仕組みになっています。
ロンドン各地のオフィスで出張実施をしており、WeWorkなどのコワーキングスペースから、 Warner Musicグループ社など大手オフィスまでに活動を広げています。
テクノロジー x ウェルネス=トランステック(Transtech)
二つ目のトレンドとして、心身の健康と幸福へのトレンドを背景に、これを最先端の脳科学、心理学、テクノロジーを活用して実現する新たなテック領域「トランステック(Transtech、Transformative technologyの略)」が注目を浴びています。その市場規模は3兆ドルにも及ぶと予測されています。また、トランステックに関連するスタートアップは、合計16億ドルの資金調達を実行しているとのこと。
トランステック業界の中でも大きな割合を閉めるのが、メディテーション(瞑想)アプリ。2016年以降の3年間だけで、2000件もの新しいアプリがローンチされました。競争率の高いこの業界の収益の85%は、CalmとHeadspaceという2社によって独占されています。
Calm(カーム)
メディテーションアプリでは世界で収益No.1の、Calm(カーム)。アメリカ発のサービスで、瞑想・マインドフルネスに特化したアプリを提供。2018年、8800万米ドル資金調達し、話題になりました。
様々な専門家によるガイド音声にしたがって、メディテーションを行えます。雨の音や鳥のさえずりなど、心を落ち着かせる音も収録。
「Sleep Stories」というフィーチャーを使い、眠りに誘う短編小説の朗読を聞き、睡眠導入アプリとして使うユーザーも多いのが特徴。
個人ユーザーが多い一方、5人以上グループで登録すると、登録費から50%割引になる特徴を使い、グループで登録する企業もあります。
2010年設立のHeadspaceの2年後に設立し、さらに従業員も6分の1にしかないにも関わらず、Headspaceを凌ぐ収益を記録しています。
Headspace (ヘッドスペース)
Calmと並んで有名なメディテーションアプリ、Headspaceはイギリス発のサービス。「A Gym Membership For Your Mind」(心のためのジム・メンバーシップ)とのスローガンを掲げています。
HeadspaceはMr. Puddicombeという可愛らしいキャラクターを通し、メディテーションガイドを行います。ストレス・不安解消に加え、安眠や効率アップ、運動のプログラムも収録。
Calmは個人ユーザーをターゲットとしている一方、こちらのHeadspaceは企業とのパートナーシップにより力を入れており、「Headspace For Work」プログラムを展開しています。すでにLinkedin社やAdobe社などが取り入れています。
1ヶ月のHeadspace For Work使用で32%ストレスが軽減、4週間で集中力は14%向上し、3週間で否定的なフィードバックに対するネガティブな反応がなんと57%も軽減したというデータが出ています。
BioBeats (バイオビーツ)
自分のストレスはどこからきているのかー。日常生活や習慣から、ストレスの根本的な原因を突き止め、ストレスを最小限にとどめられるようトラッキング機能がついたストレスコントロールのデジタルサービス。
睡眠時間、睡眠パターン、心拍数と変動率、運動量、といったユーザーのデータと、アプリのAI(人工知能)を使用し、ストレスを解析します。
2019年7月現在、企業向けプログラムを準備中。
まとめ
以上、欧米におけるウェルビーイングのトレンドについて、いくつか事例をご紹介しました。日本でもコーポレートウェルネスや、トランステックといった領域の注目がますます上がってきている中で、こういった海外の事例を参考にして見てはいかがでしょうか。
東京エスクはロンドンを拠点とするマーケットリサーチ・エージェンシーです。日本とヨーロッパの架け橋となります。日本と海外ビジネスの相互理解を促進するとともに、カルチャーという視点から、新たなビジネスチャンスを発見いたします。
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