英国スタートアップビザ取得のために私がやったこと
佐藤香里
みなさん、初めまして。佐藤香里と申します。私は、2019年4月に、それまでのTier 1 (Graduate Entrepreneur) Visaに代わるビザとしてできたスタートアップビザに応募し、2020年6月に取得しました。イギリスで起業したいと思っている方の参考になればと思い、取得のために私がやった事をご紹介させて頂きます。
2018年9月 スタートアップビザの存在を知る
私は Goldsmiths Collegeで職業心理学修士を勉強するために2018年9月に渡英しました。それまでは、2004年から2014年まで外務省員として働き、その間のほとんどが海外勤務だったこともあり、海外で働きたいという思いもあったので、留学しながら、イギリスで仕事をするチャンスも探ろうと思っていました。大組織で働いたので、会社勤めよりは、独立して働きたいと思っていましたし、企業がスポンサーになってくれる Tier2 を取るのはとても難しいと知っていたので、起業できる方法はないかと考えていました。
入学したその日に大学のキャリアサービスに行き、その思いを告げたところ、大学がスポンサーになってくれるスタートアップビザへの応募を勧められました。大学の起業支援担当者にその場でアポを取ってもらい、その時にぼんやりとやりたいと思っていた起業案を担当者に伝えました。
その案は、担当者からエクセレントな案だと言ってもらえたのですが、現実的にうまく行くのかを調べるために、知り合いでその分野に関わっている人や、Goldsmiths College で起業を支援している先生などに相談をしたところ、どうやら難しいことがわかり、ビジネス案を変更することにしました。
2018年9月~12月 ビジネスプランを練り始める
先ずは自己分析をし、自分の経験に合った新しいビジネスのアイデアを探しはじめました。私は外務省時代、日本企業と海外の企業を結び付けることにやり甲斐を感じ、また、イギリスはEU離脱の影響でヨーロッパ以外の市場に目を向け始めていたこともあり、イギリス企業に対する日本進出支援事業が思い浮かびました。
その一方で、外務省退職後、大学講師としてキャリアデベロップメントを教えていた経験があり、大学院でもそれに関わる勉強をしていたため、キャリアカウンセラー・コーチングの仕事もしたいという思いもありました。
上記の2つのプランを前述の起業支援担当者に伝えたところ、後者だと日本人が行う必要がないため、ビザは承認されにくいが、前者のプランだとイギリス企業が裨益し、イギリス経済も裨益するため、政府もビザを承認しやすいだろう、との助言を頂き、前者の案で進行する事に決めました。
2019年1月~3月 ネットワークキング
その後、さらに具体的なビジネスプランを練るため、市場ニーズを探りはじめました。2019年開けごろから勉強と同時並行で、イギリス在住の起業家やロンドン市起業支援担当、大使館、商工会議所、イギリス政府 Department of International Trade、更には Goldsmithsで起業に関する分野を研究している教授など、様々な機関・人物とアポを取り話をさせて頂きました。合わせて30人以上の方にお会いしたのではないかと思います。また、自分の修士の授業に加え、前述の起業を支援している先生が担当する起業に関する講義も聴講していました。
2019年2月には、ビジネスプラン構築の練習も兼ね、ロンドン市主催の起業コンペティション「Mayor’s Entrepreneur 2019」に応募しました。応募に使用した案は、ネットワークキングで出会った起業家の方にも見てもらい、彼らからのフィードバックを得る事もできました。
2019年4月~6月 インターンシップ
その後、ネットワークキングを通して出会った方からイギリスの The UK Advertising Producers Association を紹介され、3カ月のインターンシップをさせてもらいました。この機関は広告映像を作る企業がメンバーとなっている業界団体で、彼らは東京オリンピックを見据え、日本でもイギリスの広告映像会社が参入できるのではないかと思っていたところでした。そこで、私が対日ビジネスコンサルタントとして採用され、メンバー企業に日本の文化や仕事の仕方をレクチャーや、日本企業とどうやったら信頼関係を築けるかなどのアドバイスを提供したり、更には日本企業からのイギリスの映像制作会社に対するニーズの調査なども行いました。
また、本当かどうかは定かではありませんが、スタートアップビザ取得には、大学の成績も重要とどこかで聞いていたので、学業にも手を抜かず取り組みました。その結果、最も優秀な成績評価である Distinctionで卒業する事ができました。
2019年6月~8月 スタートアップビザ書類選考と面接
大学のスタートアップビザの書類選考は年2回あり、私は6月の選考に応募しました。大学によって、申請書類に書く内容は違うと思いますが、ビジネスの内容、出したいインパクト、起業するビジネスを行うのに自分がふさわしい理由等、計13の質問に対し合計約2千文字の回答を提出しました。およそ2か月前から質問の内容は公開されていたので、回答も2か月かけて徐々に準備することができました。
6月末に提出し、書類選考通過の通知は7月末に大学から知らされ、また、10日後に行われる面接とプレゼンについてもこの時点で報告されました。同じ時期に卒論が架橋に入っていたものの、双方手を抜かず、直ぐにプレゼンの準備に取り組み、大学の起業支援の担当者とアポを取り、予行演習にも付き合ってもらいました。
面接当日の雰囲気はなんとも和やかで、厳しい質問などはされず、私のビジネスに対する助言をもらい、よい感触を得ていました。それから間もなくして、合格の通知を頂く事ができました。
2020年3月 申請、そして現在
スタートアップビザは大学を卒業しないと取得ができないので、卒業式の2020年1月まで待つ必要がありました。新型コロナウイルスの影響で遅れが出たものの、3月に申請をし、6月末、晴れて取得をすることができました。
大学の授業が終わった昨年の9月、イギリス企業の日本進出支援を行う、JETROロンドン事務所のインベストメントチームに採用をしていただきました。 現在はJETROで働きながら、培った知見を活かし、同時に自分のビジネスも始めています。
私の強みは、外務省やJETROといった日本の公的機関が提供するサービスを熟知していることと、日本と海外のビジネスをつなげる仲介支援にずっと関わってきた経験があることです。そこで、政府や公的機関が提供している支援をうまく活用したり、仲介する企業様双方にとって最も効果的な提携の在り方を提案することができます。また、外務省時代は、スペイン語通訳のスペシャリストとして、総理通訳も務め、異なる言語間でお互いがWin-Winな関係となるコミュニケーションを生み出すことも得意です。このような知識、経験、スキルを活かして、イギリス・スペイン企業と日本企業様の仲介支援、ビジネス関連の調査などを自分のビジネスとして展開していきたいと思っています。
スタートアップビザに挑戦したい人へのアドバイス
ビジネスの内容やインパクトも問われますが、審査ではとにかく人を見ます。私の場合、元外交官という職歴が自分の提案したビジネスに説得力を持たしてくれました。したいと思っている事業にニーズがあるかを検証するとともに、なぜ、あなたがそれをするのにふさわしいのかを、それまでの職歴や経験から棚卸をして、自己PRをすることが大切だと思います。後は、ネットワークキングをできる限りして、情報と人とのご縁、そこから得られるチャンスをものにしていくことが何よりも大切です!
佐藤香里 プロフィール
東京外国語大学外国語学部スペイン語学科卒
スペインESADEビジネススクールMBA
ロンドン大学Goldsmiths College職業心理学修士
2004年から2014年まで外務省に勤務。この間、スペイン語通訳官として総理大臣、外務大臣、皇室とスペイン語圏政府要人との通訳も務め、安倍総理のスペイン、中南米公式訪問に安倍総理夫人の専属通訳として同行。独立して働きたいと思っていたことから、2014年、外務省を退職。日本で大学講師、スペイン語英語商談通訳、国際プロジェクトにおけるコンサルティングを行う。2018年、海外で働きたいと思い、渡英。ロンドン大学 Goldsmiths Collegeで職業心理学修士を学び、在学中にスタートアップビザに学内選考に応募し、20人枠の1人に選ばれる。現在は、ジェトロ・ロンドンで、イギリスのハイテク系企業の日本進出支援を行いながら、自分のビジネスでは、イギリス、スペイン企業と日本企業・機関間の仲介支援、コミュニケーションサポート、プロジェクト管理やビジネス関連政策の情報収集提供などを展開している。
詳しいプロフィールとご連絡はこちらから
英国スタートアップビザに関するより詳しい情報については、Home Officeの公式ホームページ及び同機関のガイダンスハンドブックをご参照ください。
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