世界をリードするオランダのサーキュラーエコノミー先進事例【DE CEUVEL/BLUE CITY/NDSM】
野本 菜穂子
近年話題となっている、サーキュラーエコノミー(循環型社会)。通常「ゴミ」とされるものを「資源」と捉え、廃棄を出さない経済循環の仕組みのことです。サステナブルであると同時に、このように資源をリユーズ・リサイクルすることで、2030年までに、新たに4.5兆ドルもの利益を生み出せるとも言われています。
オランダのサーキュラーエコノミー(循環型社会)の特徴
世界で最も先進的なサーキュラーエコノミーの取り組みをしているのが、ヨーロッパ地域。中でも、弊社の新たな海外拠点アムステルダムが位置するオランダが、世界から最も注目を浴びています。
オランダでは、「サステナビリティー」をキーワードに、古い造船所や廃業したプール施設といった手付かずだった場所が、起業家やスタートアップが集まるコワーキングスペースやレストラン・カフェ、イベントスペースに次々と姿を変えています。
そして、このような場所にコミュニティーが根付き、新たなカルチャーの発信地となっています。
これまで相いれないと思われてきた、環境と経済の利益。これを一致させることができる、新しい産業の形としてサーキュラーエコノミーが注目されています。
オランダのサーキュラーエコノミー(循環型社会)の先進事例
アムステルダムでは2025年、オランダ全体では2050年までにサーキュラーエコノミーを実現すると公言しています。
国土も資源も多くないオランダでは、サーキュラーに移行することが経済的にもリスクの低い施策とも言えます。アムステルダム市は、「これによりPeople, Planet and Profit(人間、地球、収益)という3つの社会へのメリットを生み出すことができる」ともコメントしています。
このような背景があり、多くのプロジェクトが支援されやすい土壌が整っています。本記事で紹介する3施設は、そんなオランダでも特に先進的な事例です。
De Ceuvel(デ・クーベル)
日本でも時々耳にするようになった施設、De Ceuvel(デ・クーベル)。
アムステルダム市内でも、特にボトムアップ型のプロジェクトが多く、世界から注目されている北区(ノールト地区)に位置しています。
この施設の特徴は、なんといっても汚染された造船所の跡地を使用し、アップサイクルされたハウスボートが中心となっていること。これらがオフィス&コワーキングスペース、研究ラボ、イベントスペース、ホテル、カフェなどとして使われ、サステナブルなクリエイティブ・ビレッジとして機能しています。
また、施設全体に「サーキュラー」な取り組みが施されています。例えば、各ボートにソーラーパネルやコンポストトイレが設置され、ブロックチェーン技術を使ったサービス「Jouliette」を通じてエネルギーのシェア・交換ができたり。一方、コンポストトイレで集められた有機ゴミは、施設内のアクアポニックスの肥料となり、アクアポニックスで取れた野菜はカフェで提供されています。
これは多くのプロジェクトの一例にすぎませんが、このような取り組みが多発しているゆえ、Cleantech Playground (クリーンテック・プレイグラウンド) とも呼ばれています。
De Ceuvelのの中心的存在なのが、設立計画に大きく関わっているMetabolic社が運営する、Metabolic Lab(メタボリック・ラボ)。ここでは、一般・企業・政府向けに、サステナビリティーに関する多くのイベントが行われています。
このラボを囲むようにしてあるのが、14隻の陸揚げされたハウスボートからなる、オフィスやコワーキングスペース。建築事務所からフードテックのスタートアップ、それからデザイナー、ライター、トレーナーなどの起業家やフリーランサーが60人ほど集まっています。入居企業の一覧はこちらから見ることができます。
このほかに、Cafe De Ceuvelというオランダを代表するサステナブルなカフェや、Hotel Asile Flottantという1隻の陸上ボートと6つの水上ボートで形成されるホテルも敷地内にあります。
このプロジェクトは、もともとアムステルダム市が10年間の土地利用コンペを2012年に実施したもの。
採用されたデザイン会社Sapce&Matter社をはじめとし、様々な分野の専門家を巻き込んで事業発案されました。正式には2022年までのプロジェクトなので、ぜひそれまでに実際に訪れてみてはいかがでしょうか。
Blue City(ブルーシティー)
Blue Cityはロッテルダムの施設で、古いプール施設をレノベーションしたイノベーションラボ&コワーキングスペースです。
30社以上のスタートアップ&中小企業が集まり、それらに共通しているのはどれも再利用する循環型のエコシステムの実証に取り組む「サーキュラーエコノミー」をテーマにしていることです。エンジニア、アーティスト、建築家、各種職人、バイオエンジニア、科学者など様々な人が集まっています。
ここでは、例えばrotterzwamといった企業が、飲み終わった後のコーヒー豆からキノコを栽培しています。
そのキノコが栽培されるときに発生する二酸化炭素は、Spireauxという別の企業が、地球に優しいスーパーフード、スピリルナの栽培に使用しています。
家畜に使用される水量を比べると、キノコの栽培では600から1,000倍もの水を節約することができます。ヨーロッパでのベジタリアン・ビーガンが増加しているのも、こういった背景が挙げられます。
そのほか、地域で出たフルーツなどの有機ゴミを、人工皮革に加工し、バッグなどをつくるFruitleatherという企業もBlue Cityに拠点を置いています。
このように、各企業がうまく連携し、ビジネスの「チェーン」を生み出しているのが特徴的なBlue Cityです。
NDSM(エヌディーエスエム)
NDSMはDe Ceuvelと同様、アムステルダム北部に位置しています。
1984年に閉鎖された造船所跡地を使い、10年ほど前から時間をアーティストやクリエイターたちがアトリエを構えはじめ、今ではスタートアップからRedbullなどの大手企業までがオフィスを構える立派なクリエイティブビレッジとなりました。また、貸出イベントスペースやバーなども数多くあり、観光地としても活気付いています。
ここには、世界中の芸術家、デザイナー、建築家、エンジニアなどが集まり、多くの先進的な実験やパイロットプロジェクト、インスタレーションが行われています。その多くがサステナビリティーやサーキュラーエコノミーに関連しています。
特徴的なのが、NDSM内で毎年4月に行われるテクノフェス、DGTL Festivalが、2020年にして世界初のサーキュラーフェスティバルになると言われていることです。
フェス会場とは「臨時的な小さな街」のよう、とも言えます。来場者向けに、食べ物やトイレ、電力、水、寝る場所などが求められます。したがって、サーキュラーなサービスをテストする絶好な機会ということで、様々な取り組みがパイロットテストされる予定です。
過去には、例えばフェス会場の中央に「Resource Street」という名のリサイクル場を設置し、ペットボトルの蓋がその場で液体化され、新しいプラッスチックに生まれ変わる技術を持った機械が設置されました。
その他、「サーキュラー・フードコート」では、地域の農家から「規定外」として売れない野菜やフルーツを使った料理が振る舞われました。
今年はどのような新しい取り組みがされるのか、非常に興味深いです。
もともと20年前に廃墟となったこの造船所に、表現の場を求めて不法占拠したアーティスト達。彼らをまとめ、最終的に行政が認める自治区をつくりあげたのが、都市計画のパイオニアのエヴァ・デ・クレルク氏です。
日本とも交流があるエヴァ氏のウェブサイト(日本語)はこちら。NDSMの詳しい情報やツアー案内などが載っています。
まとめ
De Ceuvel、Blue City、NDSMというオランダを代表するサーキュラーエコノミーの事例をご紹介しました。
どれも日本ではまだまだ知名度が低いですが、さすがイノベーション先進国オランダ、コンテンツ的には世界レベルです。
たくさんの施設があるからこそ、それぞれの間でも差別化・競争が進んでいます。しかし、どれもサーキュラーエコノミーの利点を理解し、うまく利用しています。
オランダ、そしてヨーロッパ全体では、「サステナブルな生き方はかっこいい」という認識が広まっています。特に若者の間では、自分の日々の行動が社会や地球環境に直接影響を与えているからこそ、より良い選択をしなければいけない、という意識が高まっています(ヨーロッパにおける消費思考・マインドセットについては過去の記事「ヨーロッパではもう当然!エシカル消費(ETHICAL CONSUMERISM)の注目キーワード6選」を参照)。
クリエイティビティーから生まれるサーキュラーなアイディアは、それ自体が文化となり、次世代のトレンドを生み出しています。COP26が今年11月にグラスゴー・スコットランドで開催されるのもあり、今後なお注目されるテーマと言えます。
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