
環境、動物、そして自分に優しく!ヨーロッパの美容業界の5大トレンド
Maki Hasegawa

ヨーロッパにおける美容トレンド
ソーシャルメディアやインフルエンサーを通して次々とトレンドが生み出され、近年著しい進化を遂げる美容業界。Edited社の調べによると年々その市場価値は増える一方で、5320億ドルにも及びます。
自社ブランド商品を消費者に直販するGlossier(グロッシエー)やHarry’s(ハリーズ)などのD2C(Direct-to-consumer)ビジネスも力をつけていて、顧客関係の構築方法やビジネスモデルに変化が見られるのも特徴です。また、#passonplastic(プラスチックはパス)キャンペーンやビーガンコスメも注目を集めていて、消費者自身がエシカルで意識の高い消費行動を目指す姿勢が見られます。
本記事では、ヨーロッパ、特にイギリスの最新ビューティートレンドを5つ紹介し、それぞれに代表されるブランド例をみていきます。
サステナビリティ

サステイナビリティ(sustainability)とは持続可能という意味を持ち、環境資源の分野においては廃棄物や二酸化炭素排出量の抑制を指します(サステイナビリティについては過去ブログ「ヨーロッパではもう当然!エシカル消費(ETHICAL CONSUMERISM)の注目キーワード6選」参照)。
マイクロビーズ(スクラブ洗顔料、歯磨き粉、クリームなどに含まれるプラスチック粒子)の海洋環境への影響より、イギリスでは2018年7月にマイクロビーズを含む商品の販売が禁止されたばかり。世界中でプラスチック汚染が問題視される中、多くの化粧品ブランドが環境に配慮し無駄のない商品やパッケージの開発に力を入れはじめています。
ラッシュ/Lush
色彩豊かな化粧品やバス用品を扱うLush(ラッシュ)は、エシカルなブランド理念をもつことで知られていますが、現在最も力を入れているのがパッケージフリーへの動き。同ブランドはプラスチック容器が不要となるよう作られた固形のバスボムやシャンプーなどのことを「naked(裸、むき出しの)」と表現していて、主力製品の6割がすでにnakedだそう。
今年1月にはベルリンとミラノに次ぐ3店舗目の100%パッケージフリー店がマンチェスターにオープンし、話題になりました。商品開発担当のAlessandro Commisso氏は、「naked shopが美しい商品を楽しんでもらう場になるとともに、サステイナビリティに関するディスカッションのきっかけになればと思っている」と述べています。
Lushではオンラインで注文された商品もプラスチックを使わないパッケージで郵送されていて、段ボール箱にジャガイモのデンプンでできた緩衝材を入れています。
Refill(レフィル=詰め替え)式の化粧品
化粧品の容器を1回限りで使う、またはリサイクルするのではなく、再利用するために「Save your empties(空容器を集めよう)」という動きも広まっています。年間1000億以上の化粧品のパッケージが世界で製造されているものの、そのほとんどがリサイクルできない素材であることが分かっているからです。
イギリス発のBeauty Kitchen(ビューティーキッチン)はオーガニックでビーガンのスキンケア商品を展開するブランド。使用済みの容器を返却することで繰り返し再利用が可能になる「Return · Refill · Repeat」という仕組みを代表のJo Chidleyが考案し、イギリスで最もサステイナブルな化粧品ブランドの一つとして注目されています。
さらに、今年6月にオープンしたドラッグストアチェーンBoots(ブーツ)の旗艦店には同ブランドのレフィルスタンドが設置され、シャンプーやハンドソープ、ボディソープを自分で補充することができるようになりました。
Loop(ループ)は循環式のオンラインショッピングサイトで、丈夫で繰り返し利用可能な容器に入ったPanteneやThe Body Shop他の商品を購入することができます。容器の料金はデポジットとして払い、使い終わって回収が済んだら返金される仕組み。ニューヨークとパリではすでにこのサービスが始まっていて、近々イギリスにも進出することが決まっています。

消費者のサステイナビリティへの意識もかなり高まっていて、クラウドソーシングにより情報を集めたUseless(ユーズレス)というロンドンのレフィル、量り売りの店をまとめたインタラクティブマップも存在するほど。化粧品やケア用品を補充できる店を簡単に調べられるようになっています。
Waterless beauty (水を含まない化粧品)
プラスチックと同じく多くの化粧品ブランドが消費を控えているのが、美容業界で最も使われている成分である水。全世界で総人口の4分の1が今後数年のうちに深刻な水不足に見舞われる可能性があると言われており、例えばL’Oréal(ロレアル)は2020年までに自社製品の水分量を60%減らす目標を掲げています。
植物成分やオイルを主成分とした「waterless beauty(水を含まない化粧品)」の特徴はパラベンなどの防腐剤や乳化剤を一切含まず、成分本来の効能が存分に発揮されること。
2016年には世界初の水を含まないコスメブランドPinch of Colour(ピンチオブカラー)が登場しています。先ほど紹介したLushの商品は固形ですが、Guy Morgan(ガイモーガン)のパウダーフェイスマスクやクレンジングのように粉状の商品も開発され、今後も様々な商品への応用が期待されます。
ビーガン・クルエルティーフリー
過去の記事でも紹介したように、環境や動物への配慮からベジタリアン・ビーガンになる人が年々多くなっているイギリスでは、消費者のニーズに応えクルエルティーフリーの商品に切り替えるブランドが増えています。
EU内では化粧品のための動物実験はすでに廃止されており、2018年にはイギリスでのビーガンコスメの売り上げが38%増えたことが分かっています。特にコスメCharlotte Tilbury(シャーロットティルブリー)、Hourglass (アワーグラス)やスキンケアのElemis(エレミス)、Dr. Botanicals(ドクターボタニカルズ)などはクルエルティーフリーであることを公表しています。
Beauty Without Cruelty(直訳:美しさに犠牲はいらない)というビーガン・クルエルティーフリーに特化したイギリス発のコスメブランドも。多くのファンデーションやマスカラに使われているラノニンや蜜蝋などの動物性成分を含まないコスメラインを展開しています。
ダイバーシティーの尊重
さまざまな肌の色に対応した豊富なカラーバリエーションを揃えたり、人種や性別、年齢などに関わらないインクルーシブなマーケティング活動を行うなど、ここ数年でイギリスの美容業界においてダイバーシティーを尊重することが強く求められるようになりました。
背景には若い消費者層が考える「美しさの理想像」が多様化してきたこと、そして美容に興味を持つ男性が増えてきたことがあり、男性が自分へのご褒美にスパやサロンに行く「manpering(man + pampering)」と呼ばれるトレンドも登場しています。
2016年にはメイクアップアーティストのJames CharlesがCoverGirl初の男性アンバサダーCoverboyとなり注目された他、業界ではジェンダーニュートラルなメイク用品も増えつつあります。例えばFenty Beauty(フェンティビューティー)、Fluide(フルイド)、Jecca(ジェカ)、Panacea(パナケイア)は全ての性的指向の人をターゲットに成功をおさめているブランドの一部。
また自分のありのままの姿を愛そうというbody positivity(ボディポジティビティ)のムーブメントも業界内で広がっています。イギリス出身のモデルCharli Howardが立ち上げた、肌の完璧さを求めないスキンケアブランドSquish(スクィッシュ)はその一例。他ブランドの広告や写真はレタッチが行われているものが多くありますが、Squishは誰の肌にも欠点はあるとし、自社ブランドモデルの写真は一切加工していません。
モデルや消費者層のダイバーシティにも配慮したSquishのスキンケアラインは、乾燥やニキビなど多くの人が共通して持つ悩みに対応しています。
Squishが掲げる「ありのままの自分と向き合う」というメッセージは特に若い世代に支持を集めています。調べによると13–34歳の消費者のうち80%が「being yourself(自分らしくいること)」が自身の美しさの定義であると示しており、ブランドに対してもこのような価値観やインクルーシビティを求めていることが見てとれます。
美容とウェルネス
精神と身体両方の健康への注目が高まっているイギリス(ウェルビーイング、ウェルネスについては過去の記事参照)では今、美容がウェルネスにおける重要な役割を持つようになり3つのトレンドが生まれています。
1つ目は「Nutricosmetics(ニュートリコスメティックス)」と呼ばれる、皮膚や髪の美容を目的に栄養素を口から摂取するトレンド。肌に良いとされるコラーゲンやビタミンなどの成分をサプリメント、食品、飲料などの形で摂取することで「beauty from within(内側から美しさ)」を目指すものです。
これは昨今の消費者が栄養や美容成分について広い知識を持つようになったこと、そして自発的に健康と美容の管理(self-care:セルフケア)を行うようになったことを象徴しています。ニュートリコスメティックスの市場をリードするのはAge Quencher(エイジクエンチャー)、Moon Juice(ムーンジュース)、Kora Organics(コーラオーガニックス)などのブランドで、水やジュースなどに溶かして飲むパウダー状のものや錠剤があります。一方で、科学的な証拠や実験結果が乏しいことから消費を控える人も少なくありません。
2つ目のトレンドとして挙げられるのがスピリチュアルな儀式をインスピレーションに開発されたホリスティックなスキンケア商品。古代バリに伝わる水の儀式を元にしたRitualsの「Rituals of Banyu」コレクションやインドのアーユルヴェーダの理論に基づいた商品を提供するMauli Ritualsがその代表です。このように精神的、感情的バランスを整え、日頃のストレスを解消できるようなウェルネスに特化した商品が日々忙しく働くイギリス人からの人気を集めているのです。
3つ目に、鬱や不安症や慢性痛、中枢神経系の病気の治療に効果があると世界的に注目されているカンナビジオール(略称CBD)を配合した化粧品が多く見られるようになっています。
CBDは麻に含まれる物質で、薬物のマリファナのような高揚感を引き起こさないことが証明されています。肌への抗酸化、抗炎症、保湿作用があるほか、外用剤として不安障害や痛みを解消するために使用することもでき、CBDはまさに美容とウェルネス両方に効く万能薬。
Ho Karan(ホーカラン)はCBDを配合したスキンケアを専門に扱うフランスのブランドですが、Herbivore(ハービボア)、Kiehl’s(キールズ)、Milk Makeup(ミルクメイクアップ)、NYX(ニックス)などの有名スキンケア・化粧品ブランドもここ数年でCBD配合の商品を発売していて大きなトレンドとなっています。
アジアの美容トレンドの影響
StylusのビューティーエディターLisa Payne氏によると欧米で見られる商品や美容成分などに関するイノベーションの多くは、アジアの美容業界に影響を受けて導入されるものが多いのだとか。特に韓国の影響は大きく、最近では「Skip-care(スキップケア)」というミニマリズムなスキンケアへのアプローチや、アンプルと呼ばれる使い切りで鮮度と効果の高いセラムがイギリスで注目されています。Estée Lauder(エスティーローダー)がいち早くこのトレンドに乗り2016年からAdvanced Night Repair Intensive Recovery Ampoulesを販売しているほか、Elizabeth Arden(エリザベスアーデン)も昨年 Retinol Ceremine Capsulesを発売開始しました。
またホリスティックなライフスタイルを求めるイギリスの消費者たちの間では、自然由来の成分を多く含み、肌のトラブルを予防することを重視した日本のスキンケア用品も注目を浴びています。日本の美容ブランドは科学に基づいた商品の開発において特に優れていることで知られていて、例えば昨年発売の資生堂のEssential Energy Day Cream SPF20は肌を再起動させる最先端のニューロテクノロジーを使用しています。すでに名の知れた資生堂やSK-IIはもちろん、最近ではDHCやDecorté、Suqquなどのブランドがイギリスの大手百貨店に店を構えています。
さらにTatcha(タチャ)は日本のミニマリズムに感銘を受けたアメリカ人が立ち上げたスキンケアブランドで、アメリカとイギリスを中心に人気を集めています。創立者のVictoria Tsai氏が京都に旅した時に芸者さんから教わった余計なものを省いたシンプルなスキンケア法を提唱していて、抗酸化作用と保湿作用を持ち合わせる緑茶や沖縄産の紅藻、米ぬかなどを配合した商品を販売し成功をおさめています。
まとめ
以上、イギリスで注目を集める最新ビューティートレンドを大きく分けて5つご紹介しました。美容業界に関連した社会問題に企業だけでなく消費者も取り組める、環境、動物、そして自分自身に優しいトレンドであることが感じられます。今年6月にコベントガーデンに新しくオープンしたドラッグストアBootsの旗艦店ではまさに今回紹介したようなトレンド商品(CBDやビーガン商品、韓国コスメ、サステイナブルな洗面用具など)が多く見られるようで、プラスティック製の買い物袋もおいていないとのこと。
サステイナビリティ、クルエルティーフリー、ダイバーシティーとウェルネスはどれも美容業界に限らずイギリスで今とてもホットな社会的話題やトレンドであり、日本でも今後注目されることが予想されます。
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