≪後編≫大盛況だったロンドンプライドパレード2019!スポンサーシップとアクティベーション
ウォード 涼子
プライドパレードとは、性的マイノリティともいえるLGBTQ+の存在を可視化し、性の多様性がより社会で受け入れられるよう働きかけ、誰もが自分らしく生きていける社会を促進するなどの目的の元行われているパレードです。世界各国で実施されている大規模なグローバルイベントで、ロンドンでは1972年より毎年実施されています。
今年2019年のロンドンでのプライドパレードの様子やその背景などについては、前編のブログをご参照ください。
後編である本ブログでは、2019年のロンドンプライドパレードのスポンサーシップやアクティベーション、またそれに対する消費者の反応についてご紹介します。
ロンドンプライドパレードのスポンサーシップ
ロンドンプライドパレードの公式HPでは、プライドパレードのスポンサーシップについてこのように言っています。
「献身的で忠実なパートナーなしでは、ロンドンのプライドパレードは存在できないでしょう。・・・(中略)・・・パートナーは、LGBTQ+コミュニティの素晴らしいアライとしての献身を証明して下さり、その支援に心から感謝しています。」
実際、スポンサーシップによって生まれる収入は約65万ポンドと多額で、プライドパレードの全体収入の約3分の2を占めると言われています。これだけのスポンサーがついているからこそ、多くの人が無料でプライドパレードに参加できると言えます。
スポンサーシップは、「インクルーシブ、安全で楽しい年一回のプライド・セレブレーションをロンドンで提供することにより、ロンドンのLGBTQ+コミュニティの可視化を促進すること」を目的とし、その元に以下3つのミッションを掲げています。
・「LGBTQ+コミュニティのどのセクションもを含め、無料で参加できるようにすること」
・「LGBTQ+人生をセレブレートし、平等に向け闘い続けること・偏見を乗り越えるためのプラットフォームを提供すること」
・「よりロンドンのLGBTQ+コミュニティのニーズに応え、ロンドンを世界におけるかがり火としてプロモートするため、ロンドンのプライドパレードを持続可能にし且つ大きなものにしていくこと」
こういった価値観と共鳴できるブランドが、ロンドンプライドパレードのスポンサー企業になることができます。
実際、ロンドンのプライドパレードはどんな企業からも寄付を受け取るというわけではありません。プライドパレードのマーケティング・ディレクターのトム・スティーブンズが、「私たちにはエシカルな基準があり、全てのブランドはこの基準を満たさなければなりません。つまり、どれだけそのブランドがインクルーシブであるかどうかをしっかり確認しているのです」と言っている通り、正式なスポンサーシップになるためには審査に通る必要があります。
スポンサーシップカテゴリーとプライドパレード2019スポンサー企業一覧
スポンサーシップカテゴリー
ロンドンのプライドパレードのスポンサーシップは、その規模によって、「ヘッドライン」、「ゴールド」、「シルバー」、「ブロンズ」、「パートナー」の5つに分類されています。
ヘッドライン (Headline): 年間を通して、同業界で唯一のスポンサー企業になれる。独占的なプレスローンチ、ステージに上がることもできる。パレードの先頭部分でのフロート、トラファルガースクエアで追加のブランディングも可能。
ゴールド (Gold): PR活動の関わり/ケーススタディの優先。ステップ&リピートボードにロゴ掲載、4月~7月まで同業界で唯一のスポンサー企業になれる。印刷物のマーケティングマテリアル全てに掲載、パレードではセクションA&Bを確保。
シルバー (Silver): トラファルガースクエアのステージに続くマーケティングキャンペーンに掲載、その他のステージにもロゴが掲載される。ガラ・ディナーのチケットが手に入る。
ブロンズ (Bronze): パレード行進での場所を確保できる。ソーシャルメディア掲載、全てのステージとエリアの入口でのブランディング、占有スペースの街灯柱や、フェンスでのブランディングが可能。
パートナー (Partners): パレードでのスペース確保、ロゴとキャンペーンアセット利用、ウェブサイトやアプリでの掲載、当日のホスピタリティー。
スポンサー企業一覧
今年2019年のプライドパレードでは、35社がスポンサー企業としてつきました。
以下はその一覧です。多くのブランドが、プライドのシンボルであるレインボーのデザインをあしらっていることが分かります。
スポンサーシップ/アクティベーション例
今年は、大成功をしたキャンペーンから、逆に炎上してしまったマーケティング事例など、様々な企業のスポンサーシップが見受けられました。
まずは、ロンドンプライドパレードの公式スポンサーの中から数社をピックアップし、成功したスポンサーシップやアクティベーション事例を紹介します。
テスコ(Tesco)
テスコ(Tesco)は、イギリスの大手スーパーチェーンです。過去連続してロンドンのプライドパレードのパートナースポンサーをしていましたが、スポンサーとなって10周年を迎える今年のパレードを節目とし、ヘッドラインスポンサーになりました。ボランティアのためのパレード当日の昼食や、パレード参加者への飲料水や旗等を寄付。プライドパレード限定のT-シャツを含む様々な商品の売上から、過去3年間で少なくとも15万ポンドをLGBTQ+コミュニティに寄付しています。
プライドパレード当日には、テスコ社員がボランティアとして参加することも恒例になっていて、今年は約200人が参加しました。
また、テスコはフロートを用意し、プライドパレードを更に盛り上げていました。
テスコのLGBTQ+社員ネットワークである「アウト・アット・テスコ(Out At Tesco)」の主任であるBarry Daviesは、「このテスコの長年のLGBTQ+コミュニティへのコミットメントは、テスコの職場や店舗、またそれを超えるスケールでダイバーシティーやインクルージョンに寄与していることの現れ」と言っています。
アマゾン・ミュージック(Amazon Music)
アマゾン・ミュージック(Amazon Music)は、2017年からロンドン・プライドパレードの正式スポンサーとなっており、今年2019年はゴールドスポンサーとして参加しました。
スポンサーシップの一環として、アマゾン・ミュージックは、「プラウド(Proud)」という12種類のプレイリストを提供しました。このプレイリストは、パレード中での使用だけでなく、アマゾンで一年を通して聴くことができるようになっています。
Pride’s Got Talentのサポートもアマゾン・ミュージックのスポンサーシップの目玉の一つでした。Pride’s Got Talentとは、LGBTQ+コミュニティから才能あるアーティストを発掘することを目的に行われるコンペティションです。主流社会から周縁化されがちなLGBTQ+コミュニティ出身のアーティストに平等なチャンスを与えること、関連業界のエキスパートからLGBTQ+コミュニティが有益なアドバイスなどを得られるようにすること、ダイバーシティに富んだプライド・ステージを実現することなどをミッションに、2014年から毎年、The Musicians Unionとの共催のもと開催されています。
Pride’s Got Talentで競い合ったアーティストたちは、その後プライド関連のイベントに声をかけられる機会が増え、ロンドンプライドパレードをはじめ、特に勝者はEuroPrideやWorldPrideといった大規模なプライドの祭典に出演することも可能になるなど、キャリアを積むチャンスとしても注目されています。
コンペティションは2019年頭のオーディションに始まり、数ステージに分けて行われ、セミファイナル・ファイナルは同年4月に実施。ジャンルはドラッグ、サーカス、コメディなど様々でした。
また、ロンドン・プライドパレードに先駆けて、アマゾン・ミュージックはPink News(LGBT+コミュニティを支援するためのニュース・情報発信をしているグローバル・プラットフォーム)と共に、イギリスの子供たちに対するLGBTQ+に関する教育キャンペーンを7月4日より開始。イギリス全土で実施されるLGBT+関連の教育プログラムとしては初となりました。
「LGBTQ+リーディング・ロードショー」と称し、イギリス各地の小中学校(11~16歳)に出向き、ゲストスピーカーと共に他社を受け入れることの大切さに関するストーリーの読み聞かせ、アドバイス、メンタリングなどを実施。このプログラムに参加した学校は、LGBTQ+コミュニティを受け入れることの大切さやLGBTQ+の人々の経験などについて書かれた本が入った、無料の「ブック・ボックス」を受け取ることができました。PinkNewsが新たにスナップチャットで販売を開始したグッズであるPinkNewsピンバッジもおまけとしてついていました。
YouGovによって行われたアンケート調査結果によれば、「58%の学校教師が、一般企業からの支援でLGBTQ+やダイバーシティに関する教育をすることに賛成している」というデータが発表されています。
このようなニーズを受け、本キャンペーンは開始されました。最近、バーミンガムの小学校前で、主に宗教的な理由からLGBT+に関する教育を行うことに対し反対するデモが行われたという事件があったことからも、子供たちに対しLGBTQ+教育を行うという本キャンペーンはインパクトがあったと言えます。
アマゾンの担当者であるサイモン・ジョンソンは、このキャンペーンは「今年のロンドン・プライドパレードのオフィシャル・ミュージックパートナーとしての貢献にも寄与するもの」と位置付けていました。
消費者の反応:賛否両論のプライドパレードスポンサーシップ
プライド・ロンドンは、パレード参加者に対しプライドパレードのスポンサーシップに対する印象について調査を行っています。それによると、LGBTQ+コミュニティを支援しているブランドに対し、「そのブランドの商品・サービスをより買いたいと思う」(60%)、「そのブランドにより良い印象を持つ」(68%)、「そのブランドをより他の人に勧めたいと思う」(59%)などという声が聞かれ、全体的に好印象であることが分かります。
しかしながら、消費者側は、本当にスポンサー企業がLGBTQ+コミュニティをサポートする気概があるのか、それとも単なる宣伝のためにやっているのか・・・と、目を光らせているのも現状です。以下は、賛否両論となったスポンサーシップ・アクティベーションの例を一部紹介します。
バドワイザー(Budweiser)
今年のロンドン・プライドパレードでゴールドスポンサーであったバドワイザー(Budweiser)は、#Flytheflagキャンペーンの一環として、プライドパレードのルート上で無料のカップを配布することを発表しました。カップのデザインは、レインボーフラッグをはじめとし、トランスジェンダー、レズビアン、アセクシュアル、インタセクシュアル・・・など、それぞれの属性のシンボルとなっている旗をデザインとして使用していました。また、プライドパレード中に得た利益は全て9つのチャリティー団体に寄付するなどし、同コミュニティーへのサポートを表明していました。
こういったバドワイザーの姿勢を評価する声も多いものの、この無料のカップについて良く思わない消費者もいました。それは、そもそもホモフォビック(同性愛嫌悪)で、企業がプライドパレードやLGBTQ+を支援することを良く思っていないという層からの反応も含まれますが、LGBTQ+コミュニティやその支援者層からも批判的な声が集まっていました。
例えば、以下のようなツイートが散見されました。
つまり、スポンサーシップとしてのバドワイザーのキャンペーンは単なる「プライドの商業化」で、真の意味でのコミュニティへのサポートとは言えないという批判と言えます。
また、この無料カップのデザインの一つについて、バドワイザーが、「ピンクは女性性、青は男性性、紫は両性のミックスを表し、黒は無ジェンダー、白は全てのジェンダーを表します」とツイートしたことも問題となりました。「ピンクが女性で、青は男性」という伝統的な性的役割、固定観念に捉われており「もはや性差別的」との批判も多く見られました。後日、多くのメディアがこれを取り上げ、失敗に終わったプライド広告として大きく報道されました。
Barclays(バークレー)
イギリスの大手銀行の一つであるバークレー(Barclays)も、ロンドン・プライドパレード2019のゴールドスポンサーでした。2014年からプライドパレードの正式スポンサーをしており、プライドパレードだけではなく年間を通して今年は25のプライド関連イベントをサポートしています。
過去のサポート例としては、イギリス・アメリカでの同性結婚合法化に関するサポート、銀行として初めてトランスジェンダー女性を支店マネージャーへ昇進/LGBTカップルを広告に起用、従業員に対しトランスジェンダーになる過程に必要な医療費サポートなどが挙げられます。
自行の公式ウェブサイト上にも、「Colleague Stories(社員のストーリー)」と題し、自信がLGBTQ+であるとする従業員や、LGBTQ+の家族を持つ従業員の経験談等を紹介し、銀行内外に対しコミュニティに対するサポートの姿勢を全面的に押し出しています。
公式HPには、“銀行や同僚からサポートを得ることによって、リズはトランスジェンダー女性であるということを公にでき、可視化されたロールモデルとしてプライドを表明できます”といったストーリーが紹介されています。
上記の取り組みは全て好評でしたが、今回問題になったのは、ロンドン・プライドパレードに対するサポート表明の一つとして、自行のアプリのロゴをレインボーデザインへ変更した時の対応でした。この変更に対し、バークレーの既存顧客、特にホモフォビック(同性愛嫌悪)層から「銀行の信条を顧客に押し付けるな」「自分の携帯にレインボーフラッグがあること自体が不快、辞めて欲しい」などの痛烈なバックラッシュが起こり、一部顧客を失ったという事態になりました。
こういったオンラインでの書き込みやカスタマーサービスへのクレームは多々ありましたが、そのうちの一つに対し、バークレーが「不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。お客様から頂いたフィードバックは真摯に受け止めます」といった返信をツイッター上で行ったことから、今度はLGBTQ+コミュニティやそのサポーターたちからの炎上が起きました。
一人のユーザー(@irishwal)は、「レインボーフラッグを掲げたことに対して謝るんだったら、最初からフラッグを使わなければいい。プライドのそもそもの意味は、私たちが存在することに対し誰にも謝ったり断りを入れる必要がないようにすることなのに」と主張。 こういった批判を受け、バークレーはすかさずツイッター上の返信を以下のように変更しました。
何とか修正をはかったものの、プライドパレード反対者、支援者両方からこれだけ炎上が巻き起こってしまったという意味では、スポンサーシップの失敗例ともいえるかもしれません。
ディーゼル(Diesel)
一方、以下の事例はピンチをチャンスに変えた好例です。
ディーゼル社は正式なプライドパレードのスポンサーではありませんでしたが、プライドマンスである今年6月に自身のブランドにLGBTQ+コミュニティへのサポートを表明するため、レインボーカラーをあしらいました。その新しいブランディングを自社のインスタグラムアカウントで公表したところ、前述のバークレー銀行のようにバックラッシュが起こり、フォロワーが1万4千人も減ってしまいました。
しかしここでバークレー銀行の例と違うところは、ディーゼルの対応の仕方です。
同社は、これらのバックラッシュに対し更にインスタグラムで「私たちは“プライド”を支持している。それに反対し、フォローをやめた1万4千人の人たち…さよなら!」と投稿したのです。
この投稿はコミュニティのサポーターを中心に好意的に捉えられ、53,000のイイネ!と3,200件のコメントを集め注目を浴びました。
以上のように、スポンサーシップがあるからこそ多くの人が無料でプライドパレードを楽しめるという利点があるものの、消費者からの反応は様々で、支援する企業としてはジレンマがあることも現実です。
LGBTQ+コミュニティ側からも、ブランドがコミュニティやプライドパレードを支援することは「レインボーウォッシング」(ロゴや商品などにレインボーを使って即席的にサポートを表明するだけで実際は何も有意義なことをしていないこと)なのではないかという批判もあります。近年のスポンサーシップの巨大化に伴い、プライドパレードが単なる商業化の対象になっているとし、参加をやめたという一般の声も散見されます。
今後のプライドパレードとスポンサー企業の関係がどのように変化していくのか、注目されるところです。
スポンサーシップ以外のサポート
プライドパレードの殆どの収入源はスポンサーシップですが、それ以外のサポートがあることも忘れてはなりません。
例えば、ボランティアの存在。ー年間を通してプライドパレードのサポートを行っていたボランティアは150人、パレード当日には700人のボランティアが参加していました。プライドパレードのボランティアは、Queen’s Award for Voluntary Service(ボランティア団体に与えられる賞で、イギリスで最高峰のもの)に認定されています。
また、スポンサーシップ以外の収入源としては、寄付金があります。2019年ではファンドレイジングチームは19万ポンドを集め、そのうち6万7千ポンドはプライドパレード公式グッズからの売上でした。
スポンサーシップの効果
スポンサーシップの効果の測り方は様々ですが、例えばメディア露出度で言えば、ソーシャルメディアではは5億人に、テレビや新聞などの従来型のメディアでは2億人に、2018年の「Over the Rainbow」というプライドの映画では400万人にリーチアウトしたと算出されています。
65万ポンドという多額のスポンサーシップ収入を達成したのは今年が初めてのことでした。このおかげで、プライドフェスティバル中の約120のイベントのうち、3分の2は無料または10ポンド以下で提供できるようになりました。
まとめ
以上、2019年ロンドンプライドパレードのスポンサーシップの概要と消費者の反応についてご紹介しました。
弊社東京エスクでは、ヨーロッパを中心に世界各地で行われている大規模イベントのスポンサーシップやアクティベーションに関するリーサーチを行っています。ご興味のある方は、お気軽にご相談下さい!