イギリスのフィンテック事情 テックシティ・ロンドンのいま
野本 菜穂子
まず基礎からですが、フィンテックとは、「金融(Financial)」と「テクノロジー(Technology)」を合わせた言葉で、新しいテクノロジーを使って、既存の金融システムを変え、新しいサービスを生み出す企業やサービスを差します。
イギリスのフィンテック(Fintech)とは?
広義には金融機関に対しソリューション・サービスを提供するB2B サービスを含みますが、それ以上に近年では個人や中小企業を対象に金融サービスを行うスタートアップ企業を意味するようになってきています。
スマートフォン、クラウドコンピュータ、ビッグデータ、 AI(人工知能)、ソーシャルメディアをはじめとするデジタルテクノロジーの進化により、フィンテック産業はどんどん発展しました。特に「デジタルネイティブ」のミレニアル世代の要求により、モバイル上でできるリアルタイムな金融サービスが伸びています。
フィンテックの特徴としては、銀行など大企業にそのままかわるような形態ではなく、支払い・決済、P2P(ピア・ツー・ピア)レンディング、クラウドファイナンス、貯蓄・投資、資金管理、国際送金などニッチな顧客セグメントや特定のサービスにフォーカスしています。
ロンドン金融とのシナジー
ロンドン・シティの歴史
金融ハブと言えばアメリカのニューヨークを想像しますが、金融都市としてのパフォーマンスを図るものとしてしばしば参照されるGlobal Financial Centres Index (GFCI) によると、実は世界一の金融センターはロンドンとされています。ロンドンの金融ハブ、シティ・オブ・ロンドン(ザ・シティ)はしばしばウォール街と比較されますが、シティはウォール街よりも極めて長い歴史を持ちます。
ロンドン・シティはAD50にローマ人にテムズ川の北岸に「ロンディ
ニウム」と名付けた時代まで遡ります。
シティは中世から大きく発展してきた商業区域で、正式名称は、「シティ・オブ・ロンドン・コーポレーション」という“自治都市”です。コーポレーションとは、同業者組合(ギルド)の「共同体」ということで、次第に自治権を持つような区域に発展しました。王権からの独立を今でも保ち続けています。
そんなロンドン・シティ内にはロンドン証券取引所やロイズ本社、イングランド銀行等が置かれ、金融センターとして今でも世界金融を先導しています。ヨーロッパ中の企業のヘッドクオーターもあり、日本企業も多く進出しています。2017年中旬の時点で、EU全体には日系企業が1,242社、1万3,072拠点ありますが、イギリスにある拠点数は4,083拠点[1]を記録しており、イギリスはEUで一番日系企業が多い国ということになります。弊社のオフィスも、このエリア周辺に位置しています。
ロンドンのフィンテックの特徴
そんな歴史のあるロンドンの金融世界で、フィンテックは大きな発展を遂げています(イギリスで注目のフィンテック企業リストはこちら)。
とくにフィンテックの中で規模が大きいのは支払・決済に関わるサービスで、イギリスでは P2P(ピア・ツー・ピア)レン ディングのFunding Circleや国際送金のTransferwiseが企業評価額 10 億ドル超の通称「ユニコーン企業」になっています。
サービス例
3.1. トランスファーワイズ/Transferwise
事業内容:レートや手数料を最大限におさえた海外送金サービス。
今まで3,4千円かかっていた手数料が、数百円程度の少ない手数料になり、個人・法人両方で海外送金が可能になった。2015年8月にはWorld Economic Forumでテックのパイオニアと称された。ユニコーン企業。
また、ベンチャーキャピタルの投資金額が2億9,436万米ドルで、2017年の最終四半期においてはヨーロッパ全域で2位。
企業価値評価: 16億ドル
3.2. モンゾー/MONZO (モバイルバンキング)
事業内容:出費を自動的に記録するのをはじめ、ユーザーの節約の支援までしてくれるモバイルバンキングアプリ。
ビジネスインサイダーUKのランキングでも群を抜いて一位。ベンチャーキャピタルの投資金額が8,238万米ドルで、2017年の最終四半期においてはヨーロッパ全域で5位。
企業価値評価:2億 8000万ドル
3.3. ファンディングサークル/Funding Circle
事業内容:P2Pのソーシャルレンディングプラットフォーム。
投資家が個人や中小企業に直接お金を貸すことができる。ユニコーン企業。
企業価値評価: 10億ドル
ブロックチェーン・ビットコイン
イギリスは仮想通貨に積極的
フィンテックの中でも盛り上がりを見せているのが、ブロックチェーン・ビットコイン周辺です。
イギリスは仮想通貨に対し、とても柔軟です。政府システムまで応用しようとする動きがすでに始まっており、例えばイギリス政府機関の労働局(Department of Work and Pensions)がブロックチェーンを使った年金支払いに取り組んでいることもあった[2]ほどなので、低コストに、安全に複数のネットワークで取引を残すブロックチエーンが注目を浴びています。世界最大級のブロックチェーン関連のイベントも多くロンドンで開催されており、ブロックチェーンがとても盛り上がっている都市と言えます。
ブロックチェーン系スタートアップと日本
日本とも関係がどんどん深まっています。たとえば、イギリスのブロックチェーンスタートアップElectron社[3](正式名称Chaddenwych Services Limited社)に東京電力ホールディングス株式会社が昨年末に出資[4]し、より分散化された管理システムにすることでコスト削減を目指していると発表しました。Electronは知名度の高いブロックチェーン技術を駆使するフィンテック起業であり、これまでイギリスの家庭のエネルギー削減などの事業を展開してきました。
その他
他にも、コンサートなどチケットの高額転売を防止するため、ブロックチェーンを活用したスタートアップがが誕生しています。たとえばロンドン発のアヴェンタス(Aventus[5])、ダブリン発のエヴォパス(Evopass[6])といったものがあります。ただ、チケット販売分野ではイベントブライトといった大手があるため、まだまだチャレンジが続く予想です。
まとめ
スタートアップが多く活躍するイギリス中でも、特に力を伸ばしているフィンテックの事情を概観しました。金融センターとして長い歴史をもつロンドンを中心に活躍するフィンテック企業には今後も注目です。さらにイギリスでのビジネス展開についてご関心のある方は、お気軽に弊社までお問い合わせください!